2009年5月23日土曜日

『風の中のマリア』 百田尚樹

日経新聞に「ちょと難しいかと思いつつ子供達に読ませたところ、昆虫嫌いの子供達が虫に対するアレルギーがなくなった」という話が載っていて、どんな本なのか興味を持ち読んでみました。

”ヴェスパ・マンダリニア”・・いわゆるオオスズメバチのマリアの一生を物語風に生き生きと描いたものです。
昆虫界の頂点に君臨し、その獰猛性、攻撃性から大体”悪役”として扱われることが多いオオスズメバチ、よく蝉は羽化してから2週間足らずしか生きられないという話を聞きますが、何とオオスズメバチも30日あまりしか寿命がなく、しかも天寿を全うするのは1割もいません。(ちょっとビックリ)
他の昆虫やその巣を容赦なく襲うのは、幼虫段階の彼らの妹(基本的に生殖に関すること以外の働き蜂”ワーカー”は全てメス)を養育するためで、外界には百舌やオニヤンマ、オオカマキリなど、オオスズメバチの天敵ともいえる生物がいるなかで、ワーカーは文字通り命がけで狩りを行います。

物語の中で他の昆虫との会話があり、他者からみたオオスズメバチ観や、その他昆虫の生態についても描かれるので、否応無しに昆虫の世界にはまっていきます。
例えば、ミツバチにはセイヨウミツバチとニホンミツバチがいて、同じミツバチでも習性が大きく違うことが描かれています。
日本古来のニホンミツバチはオオスズメバチと長い間野山で共存してきたので、オオスズメバチの撃退法を知っています。しかし、セイヨウミツバチはそのような歴史がないのか、オオスズメバチに巣を狙われた場合には、保護者である人間が介在しない限りまず助かりません。
その一方で、ニホンミツバチはセイヨウミツバチが巣に乗り込んできて蜜を盗んでいく(盗蜂)行為に関してはまるで無力でなすすべもなく餓死してしまうのです。
1匹の大きさがまるで違うオオスズメバチに対し、ニホンミツバチが編み出した撃退法というのも神秘的です。
当然、格闘では敵わないので、48℃の高熱を出しながらオオスズメバチを取り囲むことにより熱死させるというものです。


冬になるとオオスズメバチの女王蜂候補生は一つの巣から300匹程度飛び立つようですが、無事に交尾を終えて、越冬し、自らの”帝国”を気づけるのはこのうちの1匹程度とのことです。
絶対強者に見えるオオスズメバチも、弱肉強食の生態系ピラミッドの中で一生懸命に生きていることがわかります。
この本を読むと、今まで他の昆虫を襲う残虐非道の悪役だったスズメバチを見る目が変わります。
大人にももちろんお勧めの一冊です。











それにしても、マリアとオオカマキリの戦いの時のセリフ
「早くそれを手放さないと痛い目に遭うわよ」
「悪名高いスズメバチの一族があたしに命令するの?」
「悪名高いのはお互い様よ」
といったやり取りのとき、マリアの声が攻殻機動隊の”少佐”の声(田中敦子女史)に思えるのは何故でしょうか?

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