2009年10月11日日曜日

『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』

東京大学特任教授の妹尾堅一郎先生が書かれた本です。
「日本は科学技術大国だが、科学技術立国になっていない」という危機意識のもと、これから日本が進むべき方向性についての考察が述べられています。

妹尾先生の述べるには、これから世界で戦っていくためには三位一体型戦略が必要であり、現在の日本にはそれを構築する”軍師”がいない、とのこと。
三位一体型戦略とは
①研究開発戦略:製品の特徴(アーキテクチャー)に応じた急所技術の見極めとその研究開発。
②知財戦略:知財マネジメント
③事業戦略:独自技術の開発(インベンション)と、それを中間財などを介した国際斜形分業によって普及(ディフュージョン)を図るビジネスモデルの構築。
です。

知財マネジメントというと、なんでも特許をとってしまえばいいと思いがちです。
実は、コカコーラの製造方法は1831年に薬剤師のジョン・S・ペンバートン博士が開発して以来、特許は取られていないのだそうです。これは特許はある意味ノウハウを公開して一定期間そのノウハウを担保するものなので、一定期間が過ぎれば誰でもそのノウハウを利用することが可能です。
従ってノウハウを外部に出したくない場合には特許は不向きなのだそうです。

今までの時代は”インベンション(発明)=イノベーション(価値創新)”で科学技術がイノベーションの必要十分条件であったが、これからは”イノベーション(価値創新)=インベンション(発明)×ディフュージョン(普及)”の時代で、”普及”を促進するためには”競争”だけでなく、外部との”協調”も必要である、と妹尾先生はおっしゃってます。

製品モデルのイノベーションが起こるときの歴史についても述べられていて、得てして従来モデルの延命策は短命に終わるのだそうです。
オーディオテープ→CDにおけるDAT、フィルムカメラ→デジタルカメラにおけるAPSなどなど。(確かにどちらも「そういえばあったね〜」くらいの短命でした)
それを考えると現在、自動車業界が力を入れいている”ハイブリッド自動車”についても、あっという間にEV(電気自動車)にとってかわられるのではないか、その時日本は自動車業界において今の優位性を確保できるのだろうか、という懸念を妹尾先生はもっているようです。

どうしても分かり易い事例として”製品”がでてくるので、メーカー向けかと思いがちですが、他の業界においても十分置き換えられる内容で、他にもたくさん、妹尾流のフレームワーク(「知の新領域を創出する6つの方法」など)が出てくるのでとても勉強になりました。




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