2010年9月8日水曜日

『フィンランド流 6時に帰る仕事術』

皆が休暇をしっかり取得し、6時に帰るという人口わずか530万人の国、フィンランド。
千葉県の人口(600万人)にも満たないこの小国が、世界経済フォーラム(WEF)が発表する国際競争力ランキングで日本を上回っている。
教育においてはフィンランドメソッドというのが研究されたりしているが、仕事版フィンランドメソッドとは何かを「仕事術」として述べた本。

大まかに勝手にまとめると
①徹底的に無駄を省く
・発言をしない会議には出ない(ステータス報告はメールで十分)
・不必要なメールは送らせない
②目標を定めたらやり方を含め任せる
③オープンに情報開示をする。
というところか。

「仕事術」以上にフィンランドの生活様式が日本との比較で書かれていて非常に楽しめる。


フィンランドで有名なのは教育。フィンランドメソッドとして日本でも有名だ。
OECD実施の国際学習到達度調査(PISA)の2006年度の結果では、科学リテラシーで1位、総合読解力で2位、数学的リテラシーでも2位と素晴らしい結果を残している。(対して日本は科学的リテラシーで6位、数学的リテラシーで10位、総合的読解力では15位。)

フィンランドの小中学生は、ガリ勉をしているという様子がない。そもそも小学校から大学まで無償であり、ほぼ全て公立学校だ。そして学習塾というものが存在しない。家庭教師もいない。ついでに学校には部活というものがない。
フィンランドの学校教育の授業時間数は640時間程度。日本は670時間(ゆとり教育以前では720時間程度)
フィンランドでは、フィンランド語とスウェーデン語の2カ国語が公用語になっていて、街のあらゆる場所で、看板には二つの言葉が併記されている。従って、中学卒業までに両方の言葉を覚えなければならない。
ところが、フィンランド語は日本語やモンゴル語と同じ、ウラル・アルタイ系の言語で、スウェーデン語は、ドイツ語と英語の中間のようなゲルマン系の言語だ。両者はまるで体系が異なる。
さらに、北欧の小国のフィンランドには、国がグローバル市場で生きていくためには、英語こそ、全国民に習得させる必須の言語だと言う強烈な認識がある。
英語は小学校3年生から習得させ、第2外国語は中学1年から教え始める。
フィンランドの若者は、アメリカのホームドラマを毎日見ている。
音声は政府の指導により必ず英語のままで、フィンランド語の字幕がついている。これが毎日のことだから、自然に英語が身に付いてしまうのだそうだ。

フィンランドの教育の一つ目の特徴は、独創性を伸ばすこと、独立心を高めること、そして褒める教育を行うことだ。
日本では「他の人達と協調してやっていける人間を育てる」ことを重視するのに対して、フィンランドでは「人生の全ての面で、個人として自立した生活ができる人間を育てる」ことにある。

二つ目の特徴は「落ちこぼれ生徒を作らない」という理念だ。
PISAの学力テストの結果をよくみると、全体に学力の差が少なく、落ちこぼれの予備軍が少ない。
フィンランドの学校には、ボランティアがいつも授業に参加する形になっていて、アシスタントとして教室についていることが多い。
フィンランドでは落第は「権利」とみなされていて、しっかりと理解できるまで、原級にとどまることが「要求できる」のである。
大学の入学年齢はバラバラで、平均は23歳くらい。


また、フィンランドでは、小中高校の教員になりたいという志望者が非常に多い。憧れの職業なのだ。
しかし、教員になるためには、かなり狭き門を通らなければならない。まず、全員が教育修士号を取得する必要がある。このためには、大学の教育学部で教職課程を受講して、修了しなければならない。
フィンランドの素晴らしいところは、教員の採用が、普通の企業の採用と同様、各学校の裁量に委ねられているところだ。
とはいえ教員の給料は一般の企業の社員とあまり違わない。
教員に人気が集まるのは、教員という職業が、周囲から尊敬される職業だからだ。
使命感に燃えた先生を、生徒も父兄もみな尊敬するから、日本のモンスターペアレンツのようなことは起きないのだそうだ。


フィンランドは付加価値税が25%近い高率(食品が12%、その他が22%。車の取得税は100%)。そのため、福祉が充実していると言っても、夫婦共働きをしないと、とても家計がもたない。
フィンランドは19世紀から約110年間、ロシアの占領下におかれて、いつもロシア皇帝から理屈に合わないこと、無理難題を吹きかけられてきた。苦難の末に独立を勝ち得たあと、国民は合法性の行き届いた、不正を許さない政府を自らの手でつくりあげた。
1991年、やっと工業国として一流になってきた時期にソ連の崩壊が起こった。それまでにソ連向けの輸出が全体の20%を占めていたのが、突然ほぼ0に落ち込んだ。ちょうどその時期バブル経済が進行していたために、深刻な金融危機が襲った。
91年から93年までの3年間でGDPは約10%も減少。失業率も数%だったのが17%にまで上昇した。
ところが、この時に、フィンランド政府は毅然とした対応を取り、矢継ぎ早に危機回避策を実行した。
まず銀行業界の統廃合を進め、各銀行では大幅なリストラが実行された。さらに政府自身も、財政と行政の改革を行った。国家歳出の削減のなかで、なんと年金など社会福祉予算を大幅にカットしたのだ。それは国民全員に痛みを要求するものだった。
しかし、国民はそれを受け入れたのである。そしてフィンランドはわずか4年という短期間にこの経済危機を無事に乗り切ることができた。その後の発展はめざましく、「フィンランドの奇蹟」と言われている。
振り返って日本をみると、日本の借金は950兆円という巨額に達したが、国民に消費税引き上げを説得できる政治家がいない。。


フィンランドはいまだに東の隣国への警戒を怠らない。兵役がいまも敷かれていて、18歳以上の男子には6ヶ月から1年の兵役の義務がある。
地下駐車場が核戦争時のシェルターとして機能するようになっている。
ヘルシンキの中心には国家の投資で80万人が収容できる巨大なシェルターが作られた。
平時は、市営の駐車場として利用されているが、いざとなれば、24時間でシェルターに戻すことができるそうだ。
子供のときから別荘脇(当然サウナ付き!)のドライ・トイレを日常で使っているのも、いざ戦争が始まったら質素な生活に戻ることができるということらしい。


フィンランドとは関係がないのだが、面白かったのは
「良い質問」には2種類ある
というものだ
一つ目のタイプの質問は、現場の実務者として、当然部下が押さえておかなければならないこと、例えば当面の損益や売上や、品質はどうかといった質問。
二つ目のタイプの質問とは、もっとぼやっとした、一般的・根源的なものだ。
「この仕事は、会社に取って大切なものだろうか?」
「これだけ頑張ると、本当にみんなに喜んでもらえるのだろうか。それはなぜだろうか?」
といった一見ピンとのぼけた質問だ。
良い経営者はどちらの質問も発することができるらしい。


フィンランドメソッドを研究した時にも思ったが、一度フィンランドに行ってみたいものだ。

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