2008年9月16日火曜日

『2015年の建設・不動産業』 野村総合研究所


日本の国内総生産508兆のうち、不動産業は60兆(11.9%)、建設業は32兆(6.3%)で合わせて2割近くを占める。
就業者数でみると国内全産業5,955万人のうち、不動産業は97万人(1.6%)、建設業は552万人(9.3%)で合わせると1割を占める。
この二つの業界が2015年にはどのようになっているのかを予測した本である。

基本的には、海外展開、セグメント特化、業界再編といった内容になっているが、いくつか具体的で面白い見解もあった。
以下面白い見解の抜粋。

建設業界は約52兆の市場に約50万社、542万人がひしめく巨大業界である。
フライフィッシングカーブ(企業規模と収益性の相関関係)を建設業に当てはめると売上高4000億〜6000億円規模の準大手の収益性が低い。これらの準大手は業界再編により「第6の大手」となるか、規模縮小して特定セグメント特化となるか、いずれかとなることが想定される。

住宅産業は民間住宅投資の規模を住宅産業の規模としてとらえると概ね18兆〜19兆であり、GDPの3〜4%を占める巨大産業。
実は昭和43年には総住宅数が総世帯数を上回っている。
日本の人口が2004年以降すでに減少傾向にある一方で、世帯数は約10年程遅れて減少局面に入る。

不動産業界
①人材が流動的でキーマンを獲得しやすい。
②経済環境に大きく左右されるため、資金力が大きな競争優位となる。
③仲介、ビルメンテ事業者などは多数おり、パートナーを見つけるのは容易。
と言った特性があり、一定の資金力のあるプレーヤーから見ると参入障壁は低い。
というわけで、外資の投資銀行系や金融系総合デベロッパーが新たなる競合となってくるとのこと。

国内総合デベロッパーの差別化戦略としては
①開発事業を通じて築き上げた「人的ネットワーク」
②そこから収集可能な「情報量」
に尽きる。


不動産ファンドを3つに分類する
①コア型          LTV:0〜50%   Net target return:5〜10%
②バリューアディッド型   LTV:50〜70% Net target return:15〜19%
③オポチュニスッティック型 LTV:70%〜      Net target return:20%〜
→今後日本の不動産市場は都市部を中心としたコア型市場として成立していく。

海外機関投資家の不動産投資戦略
①リスク分散としてポートフォリオ分散効果向上
 金融市場(株、債券)は結局連鎖的⇒海外不動産へ。
②インフレリスク対応投資
③長期で運用できるメリット追求
 流動性の低い資産(不動産)への投資へ。
ということで日本の不動産市場において海外機関投資家からの不動産投資(エクイティ)については今後も期待できる。

過去10年間の不動産投資戦略
①路線価—DCFギャップ戦略 (割安な路線価で物件取得)
②イールドギャップ戦略 (低利で借りて高利回りで運用、と称して新規プレーヤーに高値転売)
③賃料ギャップ戦略 (現在の賃料と将来の賃料との差に注目。ただし実際には2〜3年の期間必要)
これからは
④コアアセット創出戦略 (再開発等により割高な投資適格物件(コアアセット)に作り替える戦略)


J-REITについて
○現在J-REITはアメリカ、オーストラリア、イギリス、フランスに次世界第5位のREIT市場(約6兆円)となっているが、2015年にはオーストラリアを上回り世界第2位のREIT市場(約15兆円)として成長する可能性が高い。
○欧米の機関投資家は上場不動産株とJ-REITを一体として見なしている。そう考えると日本の公募不動産投資市場は20兆円近くに達する可能性がある。
○J-REITの海外投資解禁となるが、機関投資家には評価されない可能性あり。そもそも期間投資家はアセットアロケーションについては自分が判断したいと思っているので、総合型REITよりは特化型REITを選択する。
○今後上場不動産企業(株式会社)がJ-REITに転換するシナリオも考えられる。
 ・欧米では利益全体の75%が不動産賃貸収入であるなど一定の基準を満たせばREITとして認定される制度がある。
 ・REITの方が法人税を支払わずに株主に利益を還元しやすい。
 ・日本では平和不動産、サンケイビル、ダイビル、東宝不動産など賃貸収入メインの会社がありうる。
○J-REITは今後外部運用から内部運用に切り替わる可能性がある。 
 ・アメリカ、オーストラリアは外部運用から内部運用に切り替えている。
 ・ESG戦略の普及→E:環境、S:社会的責任、G:企業ガバナンス
 ・デベが利鞘の薄いJ-REITビジネスを展開する意義が少なくなっている 

機関投資家からみた「不動産」という視点が客観的であり、予測に説得力を持たせいている。



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