2008年12月18日木曜日

『全体最適の問題解決入門』


エリヤフ・ゴールドラット博士のTOC理論(Theory Of Constraints)のまとめを岸良裕司さんが書いた本である。
TOC理論は昔から好きでエリヤフ・ゴールドラット博士の本も何冊も読んだが、岸良さんのこの本はまた違った趣があって良い。
内容はTOC理論のまとめ的なものだが、岸良さんが付け加えるコメントが非常に温かいもので呼んでいて力づけられる。

そもそもTOC理論とは
5つの集中ステップ(Five Focusing Steps)
ステップ1:制約をみつける
ステップ2:制約を徹底活用する
ステップ3:制約にその他のすべてを従属させる
ステップ4:制約の能力を高める
ステップ5:惰性に気をつけながらステップ1に戻る
を中心とした様々な問題解決のフレームワーク理論である。
(今のところ私はそのように認識している)

この中でステップ3の「従属させる」が最も重要な戦略的ステップである。
このステップこそ、マネジメントが本当に全体最適のマネジメントを実践できるかの分水嶺となるらしい。
制約の能力を高めた際に、他のところに制約が移ってしまうことがあり得る。
次に新しい制約に取り組むよりも、事前に制約が移りそうな他の部分も能力を高めることで、制約を意図的に同じ場所においておく。
そして、いままでの惰性をうまく利用して、改善のスピードをあげるのが現実的でよいやり方である。”Progressive Equilibrium"(漸進的平衡)というらしい。

TOC理論には「対立する雲」という概念がある。この対立を解消するシンプルでパワフルな4つの対立解消術が岸良さんによって紹介されている。
「相・自・時・妙」という4つのやり方で、以下の質問をするだけである。
①相手の要望尊重法
②自分の要望尊重法
思い込み(Wrong Assumption)を導きだすための質問 「○○すると何故△△することができないと思っているのですか?」
解決策(Injection)を導きだすための質問 「○○することで△△する方法は本当にないのでしょうか?」
③時と場合によって法
思い込みを導きだすための質問 「○○と△△はどういう時に対立しますか?」
解決策を導きだすための質問 「ある条件では○○、ある条件では△△というルールで両立させることはできませんか?」
④妙案ひらめき法
思い込みを導きだすための質問 「○○と△△が両立できないと思っているのは何故ですか?」
解決策を導きだすための質問 「○○と△△が両立できる方法は本当にないのでしょうか?」

聞いてみると簡単ではあるが、これを実生活で適時活用できたら問題解決のスペシャリストになれるような気がする。

また、「戦略」と「戦術」の定義というのがあって、
「戦略」とは、「何のために?」それを行うのかという質問に答えるものである。
「戦術」とは、「どうやって?」という質問に答えるものである。
「戦術」と「戦略」は表裏一体で組織のあらゆる階層で必要なものである。
と定義されている。
よく会社でもビジョン、ミッション、ストラテジーといった言葉がごっちゃになっていてよくわからないことが多いが、上記の定義はすっきりとしてわかりやすい。

本当の”全体最適(Holistic)”というのは、哲学でいうところの「全体論」に近いもので、
「全体は部分の総和としては認識できず、全体それ自身としての原理的考察が必要であるとする考え方」
というのも成る程という感じであるし、
人を講評するときには
「いいところを2つ。欲を言えばのところを1つ見つけること。」
といったTOCとは関係のない著者の考えも書かれていて、TOC理論を紹介した内容以上の本となっている。

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